更新日:2025.5.16
退職金はどう運用すべきか?失敗談と年代別の戦略は

退職金について、「退職金はどうやって運用すべき?」「退職金運用のおすすめ商品は?」など、お困りの方も少なくないのではないでしょうか。
これまでのデフレ時代には、退職金は全額を銀行に預けておいても問題ありませんでしたが、平均寿命の伸びやインフレの進行を受けて、退職金の運用は避けられない情勢になりつつあります。
退職金の運用をするにしても、現実的なリスクを考慮した上で、「バランス型投信」や「世界株投信(オルカン)」といった比較的安全で成長が期待できるリスク資産を選択することが重要です。
本記事では、退職金の運用が必要になっている背景や、退職金運用で人気となっているおすすめ商品、退職金運用の注意点や年代別の戦略について解説しています。
退職金運用の基本
退職金を運用すべき理由
退職金は、長い老後生活を乗り越える上での貴重な資産ですが、銀行預金として預けておくだけでは「リスクを取らないリスク」があります。
その背景にあるのは、平均寿命の伸びとインフレの進行です。
平均寿命の伸び
日本人の平均寿命は延び続けており、厚生労働省の「簡易生命表(令和5年)」によると、2023年の日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳となっています。
つまり、65歳で退職するとしても、平均寿命までは男性が16年、女性は22年もある計算です。
さらに重要なこととして、平均寿命の計算には、幼児や若年で亡くなった人も含まれているため、65歳まで生存した人の残りの寿命はより長くなります。
厚生労働省の資料によると、65歳男性の平均余命は19.52歳、65歳女性の平均余命は24.38歳となっています。
簡易計算するだけでも、退職から最低でも20年以上は、年金を含めた生活資金が必要になる計算です。
インフレの進行
近年、日本でもインフレが進行しています。
インフレにより物価が上昇すれば、退職金としてまとまったお金を受け取ったとしても、その価値は大きく目減りしてしまいます。
例えば、インフレ率が年2.0%とすると、20年で物価は約1.5倍(=2.0%の20乗=1.48倍)となり、退職金の購買力が大幅に落ちる計算です。
なお、総務省の「消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)平均」によると、2024年の日本の物価上昇率(CPI)は2.7%となっています。
日本では人手不足や、金利のある世界の到来により、今後もインフレが続く公算は大きいため、退職金と年金だけでは厳しい老後は避けられません。
令和の老後には、インフレに強く、資産を守りつつ増やす可能性のある運用手段を取り入れることが重要になってきます。
60歳からの退職金運用で考慮すべき条件
60歳から退職金を運用する際には、まず公的年金の支給額や受給開始年齢を正確に把握することが基本となってきます。
年金受給においては、資産が十分ある場合には、繰下げ受給を申請することによって、75歳受け取り時には最大+84%まで増額できますが、税金や社会保険料との兼ね合いもあるため、FPに相談するなどして最適な年金受給戦略を練るようにしてください。
老後において、退職金は、年金収入で足りない分を補填する資金という位置付けです。
その上で、いくら足りないかを見積もり、資産運用について逆算する必要が出てきます。
60歳以降は、労働収入が限られてくるため、若い世代よりもリスクを取りづらくなる点を慎重に考慮するようにしましょう。
一般的には、年齢が上がるほど、株などのリスク資産の比率は減らすべきとされており、例えば「100-年齢」を株式割合の目安とする手法などがあります。
運用中も毎年の資産配分を見直し、必要に応じて債券や現金比率を高めていくことで、リスクを抑えつつ、資産寿命を延ばせるようになります。
「100-年齢」を株式割合の目安とした場合の資産配分比率は次の通りです。
年齢 | 株式割合 | 現金割合 |
---|---|---|
60歳 | 40% | 60% |
65歳 | 35% | 65% |
70歳 | 30% | 70% |
75歳 | 25% | 75% |
80歳 | 20% | 80% |
85歳 | 15% | 85% |
ただ、これはあくまで目安であり、60歳で退職金を受け取ったからといって、直ちに退職金の40%を、株や投資信託につぎ込むべきという意味ではありません。
退職金は徐々に徐々に運用に回していくべきであり、退職金の大半をいきなりリスク資産に回すことはやめておきましょう。
退職金運用の人気商品は?
退職金運用でおすすめの商品は?
退職金運用では、「安全性」「収益性」「流動性」のバランスを重視するようにしましょう。
おすすめの商品としては、国内外のさまざまな資産に分散投資した「バランス型投信」や、リスクを抑えつつ世界経済の成長に乗れる「世界株投信(オルカン)」です。
新NISAのつみたて投資枠でも対象となっており、長期的な資産形成に適した低コストかつ分散された商品として多くの世代に人気となっています。
新NISAのつみたて投資枠で投資できる「バランス型投信」「世界株投信(オルカン)」としては、次のような商品があります。
商品の種類 | 特徴 | 具体的な商品 | リターン(直近5年間・年率) |
---|---|---|---|
バランス型投信 | 国内外の株式・債券・REITに分散投資 | eMAXIS Slim バランス(8資産均等型) | +11.22% |
世界株投信(オルカン) | 世界中の株式に分散投資 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | +22.77% |
直近5年間の成績(2025年3月時点)では、「バランス型投信」は年率+11.22%、「世界株投信(オルカン)」は年率+22.77%となっていますが、これは出来過ぎです。
直近5年間は市場全体が好調だったため、今後の期待値としては、「バランス型投信」は年率5%程度、「世界株投信(オルカン)」は年率10%程度の期待に留めておくことを推奨します。
また、退職金をいきなり全て投じるのではなく、新NISAを使って、「毎月5万円ずつ長期・積立・分散投資していく」といったように、時間分散を心掛けるようにしてください。
退職金の運用で銀行商品を選ぶ際のポイント
退職金の運用先として銀行商品を検討する場合には、定期預金、外貨預金、仕組預金、投資信託などが選択肢となります。
定期預金は、元本保証が魅力ですが、金利は極めて低く、インフレに負けるリスクがあります。「守りの資産」として認識しておくようにしましょう。
ドルなどの外貨預金は、円安リスクへの備えになりますが、銀行の外貨預金は手数料が非常に高いことで知られており、知識がある場合にはレバレッジを掛けずにFXで運用した方が合理的です。
仕組み預金は、預金と金融派生商品(デリバティブ)を組み合わせた金融商品で、通常の定期預金よりも高い金利をうたって販売されるケースが多くなっています。その仕組みの複雑さゆえに注意が必要で、元本割れとなるリスクも大きい点に注意が必要です。
銀行窓口で勧められる投資信託には、手数料が高いものも多く、証券会社で新NISAを使えるならおすすめできません。
銀行商品は、退職金を安全に置いておく「守りの資産」として普通預金や定期預金は必要不可欠ですが、「攻めの資産」としてはおすすめできません。
退職金運用の失敗と教訓
退職金運用の失敗談から学べる教訓は?
退職金運用の失敗談としては、次の3つが典型的なパターンとなっています。
● 高リスク商品に投資して失敗してしまった
● 退職金を全て投資して大きな含み損を抱えてしまった
● 仕組み預金などよく分からない商品に投資してしまった
高リスク商品への失敗談としては、新興株や個別株での失敗談が少なくありません。
個別株よりも安全な、オルカンやS&P500指数といったインデックス投信であっても、一度に退職金を全て投じてしまい、2025年4月の暴落に巻き込まれてしまったケースが顕著です。
暴落に巻き込まれても売らずに保有していれば戻る可能性も高いですが、暴落期に売ってしまい、長期的な上昇の波に乗れないケースも考えられます。
また、仕組み預金やレバナスといった、よく分からない商品に投資して失敗してしまったケースもあります。
退職金運用で失敗しないために注意すべきことは?
元本保証の退職金運用商品はどうか?
退職金運用の失敗の多くは、「過剰なリスクテイク」もしくは「過度な安全志向」に偏った場合に起こります。
前者は大きな損失となり、後者はインフレによる資産目減りというリスクがあります。
退職金でリスクを取り過ぎるのも問題ですが、退職金を銀行預金のまま寝かせておくだけなのも、インフレ時代には「リスクを取らないリスク」です。
重要なのは、リスクを適度に取りながら資産を分散させ、こまめにポートフォリオを見直すことです。
元本保証の退職金運用商品はどうか?
定期預金や国債、保険商品といった元本保証型商品は、安全性は高いものの、金利はどれも極めて低水準です。
これらを中心に資産運用した場合、物価上昇によって実質資産が目減りするリスクは避けられません。
「守りの資産」としては、いつでも引き出せる普通預金を中心にするようにして、運用益が得られない資産は特に考えなくても問題ありません。
退職金を運用しないという選択肢の妥当性
「退職金は減らしたくないから運用しない」という考えもありますが、インフレが進む公算が高い今後の日本では、銀行預金に置いておくだけでは、資産の実質価値が年々目減りしていきます。
例えばインフレ率が2%、預金金利が0.02%であれば、実質的には年2%の損失と同じです。
金利が正常化しつつある今後の時代には、多少のリスクを取った運用が必要不可欠になるのが現実です。
退職金運用の成功に向けて
退職金運用を始める前に必ず行うべき準備とは?
退職金運用の第一歩として、退職金を「生活資金」と「投資資金」を明確に分離しておきましょう。
まず、今後5〜10年の生活費や医療費、予備費などの必要額を見積もり、普通預金などの安全性の高い資産に置いて確保しておきます。
残った余剰資金を「投資資金」として、投資を検討します。
このとき、投資資金を一度に投資しないように注意しておきましょう。
低リスクの「バランス型投信」や「世界株投信(オルカン)」であっても、「月5万円ずつ」のように、長期・積立・分散投資を心掛けるようにしてください。
新NISA開始と同時に、2024年1月に360万円、2025年1月に360万円をオルカンにつぎ込んでしまい、2025年4月の暴落で大きなマイナスとなっている人がたくさんいる現実を認識するようにしましょう。
トランプ関税による2025年4月の暴落は、長期・積立・分散投資によって回避できたリスクです。
そして、短期的な変動に動揺せず、長期的な視点で投資を継続していくことが重要です。
2000年から2001年に掛けてのITバブル崩壊や、2008年のリーマンショックでは、株価指数が半値になりましたが、いずれも5年弱で元に戻っています。
退職金運用で専門家のアドバイスをどう活用すべきか?
退職金運用について専門家に相談する場合、販売手数料を受け取る金融機関のアドバイザーよりも、商品を売らない独立系ファイナンシャルプランナー(FP)のほうが中立性が高くおすすめです。
ただし、相談料はかかるため、事前に資産状況・生活設計・家族構成・年金額などの情報を整理しておくことが重要です。
具体的には、「現在の資産状況はどうなっているか?」「退職金はいくら貰えそうか?」「年金収入はどのくらいになりそうか?」「家族のイベントなどで大きな支出が控えているか?」などをまとめておくようにしてください。
また、「元本をどれだけ守りたいか」「収益の目標は何か」など、自身や家族の希望を明確に伝えるための質問リストを作っておくと、相談の質が大きく向上します。
年代別の退職金運用戦略はどう変えるべきか?
50代から70代にかけての、退職金の運用戦略について考えていきましょう。
50代は、退職金をまだ受け取っていない人が多いですが、老後への準備段階として資産配分や生活設計を見直す時期となります。新NISAやiDeCoも活用して、老後への備えとしておきましょう。
60代は、退職金を受け取り、年金支給も開始される年代となります。リスクを抑えた運用を心掛けるようにしましょう。
70代以降は、退職金の運用を続けながらも、資産の取り崩し計画や相続対策の比重が高まっていきます。
年代 | 主な目的 | 運用戦略の特徴 | リスク許容度 | 資産配分の目安 |
---|---|---|---|---|
50代 | 退職準備・資産形成 | リスクを取りつつ資産を増やす段階。新NISAやiDeCoも活用しよう。 | 高 | 株・投信50%、現金50% |
60代 | 退職後の生活費確保・資産防衛 | 退職金と年金を含む資産運用が始まる。 | 中 | 株・投信40%、現金60% |
70代 | 資産の取り崩し・相続対策 | リスク重視の運用。相続も見据えていきたい。 | 低 | 株・投信30%、現金70% |
まとめ
退職金は、老後生活において、年金収入では足りない分を補填する資金という位置付けです。
退職金をまったく運用しないでいるとインフレに負けるリスクがありますが、高リスク資産への集中投資や、インデックス投信への過度の投資などリスクの取り過ぎも危険です。
退職金は「生活資金」と「投資資金」に分離した上で、「バランス型投信」や「世界株投信(オルカン)」といった安全で成長が期待できる商品に長期・積立・分散投資するようにしましょう。
また、退職金の運用はもちろん必要ですが、老後生活の土台となるのは年金です。
年金受給においては、資産が十分ある場合には、繰下げ受給を申請することによって、75歳受け取り時には最大84%まで増額できますが、税金や社会保険料との兼ね合いもあるため、FPに相談するなどして最適な年金受給戦略を練るようにしてください。